高知の下本さんを訪ねて 2

こんにちは。店主のイチカワトモタケです。

7/3(木)から、実店舗および公式オンラインショップにて

“ひとつのテーブル” 特集展
持つためのデザイン | 下本一歩・炭竹のカトラリー

を開催中です。

ご来店されたお客様がさっそく楽しんでくださっていて、
下本さんが作られる竹カトラリーの魅力に、あらためて感服しています。

まだまだご用意がございますので、おひとりでも、
ご家族やご友人をお誘いいただきご一緒にでも、
ぜひお越しくださいませ。

さて、前回のコラムにつづいて、2回目は下本さんがカトラリー作りを
始められたことについて書きたいと思います。

カトラリーを作りはじめる前はデザインや美術の勉強をされていたとのこと。
本格的に下本さんが竹をつかって制作活動をされるようになったのは2006年から。

それから約20年のあいだ、竹をつかった、たくさんのプロダクトが
下本さんの手から生み出されてきました。

はじまりは、今のカトラリー製作に欠かすことのできない「炭窯-すみがま-」を
自ら作られるところからでした。

ひとことで「炭窯を自分で作る」といっても、それはそうそう簡単にできることではありません。
下本さんは、そこにたくさんの方々の「たすけ」があったとおっしゃいます。

おじい様、おばあ様の土地に炭窯を作られるということで、
地域の方をはじめ、ご高齢の方から若い方まで、たくさんの人が協力してくださったそうです。

そうして2001年に手づくりの炭窯が完成し、それから5年ほどは
カシやナラの木をつかって炭作りをされていたそうです。

炭焼きをするときに、たくさんの煙が出ます。

その大量のけむりが出る煙突のところに、
身近にあった竹でスプーンをつくり、かごに入れてつるしたのが
下本さんの代名詞とも言える、コクのある風合いをもつカトラリーのはじまりだったそうです。

当時、下本さんが作られたスプーン。今のカトラリー製品の原形ともいえるかたちの数々(市川籠店撮影)

この写真がとても印象的で、見せていただいたときにも
“スプーンというよりは、真っ黒なアートピースのような姿”だと感じて
私が見入っていると、下本さんはこうおっしゃいました。

「オブジェとして、っていうイメージでしたね、自分としては。一応、使えるオブジェみたいな」

こちらの写真にある黒いスプーンたちは、窯の中ではなく、出てくる煙に直にあて続けていたため、
料理の味が変わるほどにおいもつよく、製品としてはつかえるものではなかったのだそう。

炭焼きから、カトラリー作りへ。

もともとはデザインを勉強されていましたが
当時は、ある面で「デザイン」することに疲れていたという下本さん。

かたや炭窯を自分で作ることや木炭作りは、大変な仕事ではありますが、
する作業そのものはいたってシンプル。

私はその話をお聞きしていて、もしかしたら、そのようなシンプルな作業を繰りかえしているうちに、
おそらく無意識に、むくむくとデザインや創作意欲のようなものが
ふたたび下本さんの中に芽を出したのではないかと、感じました。

もしかすると、炭窯作りや木炭作りというシンプルな作業に向き合っていたその時間が、
デザインに携わる下本さんにとって、人生の中でふと立ち止まるような
大きなインターバルだったのかもしれません。

炭焼きをする建屋の屋根も、竹で葺-ふ-かれています。この葺いた竹に煙があたって色づいたものをつかって箸を作ったこともあったそう。

本格的に、炭窯をつかった竹のカトラリー作りをはじめられてからは、
「機能的でありながら、端正な見た目と、主張しすぎないデザインを心がけています。」
とご本人がおっしゃるとおり、
つかう人の目線やつかい勝手と、デザインが見事に調和された
「生活の道具としてのカトラリー」を作られつづけているように思います。


そして、今回の訪問で、私が高知に赴いて下本さんとご一緒するあいだに、
もっとも印象深く心にのこったことは、
「下本さんと、周りにいる人々の、かかわりの厚み」のようなものでした。

数日の滞在のあいだ、私は幸いにも、下本さんの活動に大きく関わる方々、
近所やおなじ地域に住む人や、仕事に携わる人に、お会いしてお話しすることができました。

・炭窯を作ろう、と思うきっかけをくれた方

・それに賛同し、炭窯作りを一緒にしてくれた方々

・それを記録してくれた方

・大事な人と出会う・集う場所を作ってくれた方

・デザインを一緒に勉強されていた方

・竹の加工を手伝ってくれる方

・カトラリーをはじめて世間に紹介してくれた方

高知のその場所で、下本さんが手作りの炭窯、そして竹をつかって
カトラリーを作りつづけていることに、うなずき、よろこぶ人々の存在が
あるのだということを深く実感したのでした。

ものづくりは1人でコツコツとするもの、とイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。

もちろん下本さんにも1人で粛々と作業をすすめる時間が重要であることは変わりありませんが、
さらに、地域やそこに暮らす人々との、厚みのあるかかわりがベースにあってこそ、
ものづくりが成り立っているのだということを、教えてもらう旅となりました。

下本さんが作られる竹のカトラリーは、
シャープな印象ながら、どこか穏やかな厚みや丸みも感じる、奥深い魅力があります。

そして、なにより大事なことですが、つかいやすいということ。
長くつかうと、よりまろやかなやさしい風合いとなりますが、
それでもなお、最初に受け取る印象「シャープで、穏やか」はあまり変わらず
さらに愛着がわいてくるのです。

私たちが3-4年ほど使っている下本さんのしゃもじ(撮影:市川籠店)

ちょうどこのあたりまでコラムを書いているところで、下本さんからお電話をいただきました。

最近は、販売されていなかった「竹炭」を焼いてくださり、今回の特集展にお持ちいただけるとのこと!
会期の途中からとはなりますが、こちらの竹炭も数量限定で販売いたします。

炭焼きからはじまった下本さんの、原点にもちかい「竹炭」。
ご在店日の7月6日(日)以降、弊店営業日に店頭にて並びます。
どうぞこちらもお楽しみに。

おわり

撮影:河上展儀

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“ひとつのテーブル” 特集展
持つためのデザイン | 下本一歩・炭竹のカトラリー

2025年7月
3日(木),4日(金),5日(土),6日(日)*
10日(木),11日(金),12日(土)
17日(木),18日(金),19日(土)
→会期を一週、延長しました!

︎*6日(日)は下本さんにご在店いただきます

Open | 11:00ー16:00
実店舗 | 東京・南千住「市川籠店」