高知の下本さんを訪ねて 1

こんにちは。店主のイチカワトモタケです。

7/3(木)から、実店舗および公式オンラインショップにて

“ひとつのテーブル” 特集展
持つためのデザイン | 下本一歩・炭竹のカトラリー

がはじまります。

「炭竹-すみたけ-」という名前は、私たちがつけた愛称です。

作り手の下本一歩-かずほ-さんによると、
“切り出した竹は熱処理を施した後、
自作した炭焼き窯でおよそ1週間かけて燻し、中まで乾燥させます。
この工程により、竹の水分がしっかり抜けて、耐久性が高まります。
燻された竹の外側は艶やかな黒色に。作品を象徴する煤竹の完成です。”
とのこと。

下本さんはこの竹を「煤竹-すすたけ-」と呼ばれていますが、
私どもの店では、かごを販売する際、
べつの定義で「煤竹」という言葉をつかっているため
こちらの竹は、あえて「炭竹」と呼ぶようにしています。

弊店でも長らくお取り扱いをさせていただいていた
下本さんが作られる竹のカトラリー、
このたび初めての個展開催となります。

それに先立ち、高知県でカトラリー作りをされている
下本さんの工房を訪ねてまいりました。わたしがこちらを訪ねたのは、今回が2回目。

はじめて下本さんのところへ伺ったのは、2017年秋。
それからあっという間に8年の月日が流れていたことに
これを書きながら気づき、驚いています。

下本さんと私は年が近いこともあり、お会いするたびに
(東京にある弊店にも数回訪れてくださいました)、
竹のことやカトラリーのことはもちろん、仕事や家族のことなどなど、話が広がります。

お会いした夜は、食事をご一緒して、お酒とおいしい高知の幸をいただきながら
そうした話をして過ごす時間をとても楽しみにしています。

今回も、この8年の間、お互いにたくさんのことを経験し、
変わらないもの、または変化していったことや
変化せざるを得なかった多くのことを話しながら共有する、そういう時間となりました。

下本さんの工房は、高知市の中心部を流れる鏡川を奥深くさかのぼった山あいにあります。
久しぶりにうかがったので、前に訪れたときの記憶もおぼろげだったのですが、
また足を運んでみて、あらためて「奥地」だということを思い出し、実感しました。

高知市内から、さほど遠くないはずなのですが、自分が記憶していたよりも、
さらにずっと奥深く山を分けいっていき、
人の気配がほとんど感じられない、自然多き場所にありました。

そこは下本さんのお祖父様、お祖母様の代から守られている大事な場所。
孫である一歩さんがカトラリーを作られる場所として、引き継いでいらっしゃいます。

工房へおじゃまする際に、下本さんの車に乗せていただいたのですが、
険しい山道を進んでいくなか、車内では下本さんとこんな話をしていました。

「あの山の一部で淡竹-はちく-が枯れはじめている」

淡竹は下本さんのカトラリーにもすこしつかわれている材料。
竹は120年に一度花が咲いて枯れ、一度枯れると、
また竹細工につかえるようになるのに何年もかかるといわれている

「今年は例年よりも暑くなるのが早く、思ったよりも草が伸びている」

道中、ちょうど下本さんの知り合いの方があまりに伸びている草をみかねて、
地域で決めていた草刈り日より前もって草刈りをされていました

「車一台しか通れないような山の細道で、対向車同士が向かい合ったとき、
どのように立ち回るかで、地元の人かどうかが判断できる」

地元の人には、道のカーブごとに、どちらが先にバックするか
という暗黙の了解があるそうです

そのように山道をしばらく走っていくと、
パッと視界が開けたところに下本さんの工房がありました。

まわりは山に囲まれ、さわやかな風が吹き、
鳥のさえずりと、近くの鏡川の、清流の音がたえまなく聞こえてきます。

この地に、数年前に新しく工房を建てられたとのこと。

建物は大きすぎず、自然や風景を受け入れ、そして溶け込むような佇まい。
まるで、下本さんご自身を表しているかのような雰囲気に、
おもわず私は「おおー」と感嘆の声をあげました。

前回、8年前にうかがった際には、新しい工房のほんの少し手前にある、
ご自身で作られた炭窯と向かい合って建つ工房で作業されていました。

左の建物:旧工房(いまは倉庫)、右:炭窯のある建屋。そこへ向かう下本さん
ご自身で作られた炭窯のある建屋

カトラリーの材料としてつかう竹は、高知市内の、工房もある鏡吉原地区の放置竹林や、
所有する竹林から、仲間とともに切り出されています。

その切り出されるという竹林も、実際に見せていただきました。


工房から車ですこし走ったところにある竹林。

竹林というと、鬱蒼としていてどちらかというと薄暗いイメージもありますが、
私がそこで感じた印象は、「明るく、ひらけている」ということでした。

整然とならぶ無数の孟宗竹。足元には、いくつもの竹の切り株がありました。
下本さんにお聞きすると、この切り株も、たくさんの孟宗竹が生えていた跡とのこと。

私がひらけていると感じたのは、下本さんが長い時間をかけて、
すこしずつ竹を切り、竹を加工し、カトラリーを作りつづけてきたから。

その結果、「ひらけた場所になった」のでした。

“微力ではありますが「竹害」と呼ばれる放置竹林に新たな価値を見出し、
 暮らしに彩りを添えるような物に変えられたらと考えています。”

以前から、そうおっしゃっている下本さん。
その言葉と、私の目の前にひろがる無数の切り株や、その開放的な景色を見ながら
「言葉と行動がきちんと一致」していることに、心を打たれました。

もちろん、まだまだ日本各地には放置竹林があり、
それはかんたんに解決するような話ではありません。

でも、下本さんの仕事には、ひとつの「竹との活動」が
確かに、しっかりと存在していると思います。

そして、なによりうれしいことは、下本さんの活動によって、
私たちは日々、竹のカトラリーをたのしく使えるということ。

特集展では、かつてない種類のカトラリーがずらっと並びます。
ぜひ、お立ち寄りください。

つづく

撮影:河上展儀

最初と最後の写真のみ撮影:市川籠店

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“ひとつのテーブル” 特集展
持つためのデザイン | 下本一歩・炭竹のカトラリー

2025年7月
3日(木),4日(金),5日(土),6日(日)*
10日(木),11日(金),12日(土)
17日(木),18日(金),19日(土)
→会期を一週、延長しました!

︎*6日(日)は下本さんにご在店いただきます

Open | 11:00ー16:00
実店舗 | 東京・南千住「市川籠店」