ベンジャミンさんの工房へ(2) ― ドイツ出張記 13

ドイツのベンジャミンさんのお宅で
至れり尽くせりのおもてなしをいただいている、イチカワ トモタケです。
すばらしいゲストルームをお借りし、ぐっすりと眠ることができました。

ふと食卓を見ると、かごにたくさんのくるみが入っています。
このかごは、お父さまのレオンさんが作られる「くるみ割りバスケット」です。
じつは昨年、ベンジャミンさんから送っていただき、
弊店の特集展でもご紹介していたものです。
私にとっては馴染みのあるかごでしたが、
実際につかわれている様子を見るのは、このときが初めてでした。
かごにはハンドルが取りつけられていて、その根元にくるみを置き、
持ち手に力をかけて下げると、殻が割れる仕組みになっています。
くるみを割って食べる習慣のない私にとっては、
このかごが日常でこうしてつかわれていることに、どこか新鮮な驚きがありました。

たしかに庭には大きなくるみの木があり、足元には、そこから落ちたくるみがたくさん転がっていました。 
それをかごに入れて収穫し、先ほどのくるみ割りバスケットに入れておき、
朝食にはヨーグルトに混ぜたり、小腹が空いたときには、その場で割って食べたりするのです。
この日はとても天気が良かったので、庭に出てみると、 
おや、昨夜は会わなかった、一匹の猫が。 
ベンジャミン家の飼い猫「モスタッシュ(フランス語で口ひげの意)」がひなたぼっこ中。人懐っこい猫でした。 
そして、レオンさん、どちらかへお出かけでしょうか。お聞きしてみると、近くの川へ釣りに行くとのことで、それがこの町へ来たときの楽しみだそうです。いってらっしゃーい!

ベンジャミンさんのお誘いで、近くの草原や川沿いまで、歩いて散策に出かけました。 
どこまでも広い平原です。 
このあたりには、かごの材料となるやなぎも、ところどころに生えているそうです。 
ただ、この地域は冬になると寒さが厳しく、ベンジャミンさんも試されたそうですが、かごを作るためのやなぎの栽培には向いていないとのことでした。 
川の透明度が高く、橋から見下ろしただけで、魚がたくさんいるのがわかるほどです。 
冬の冷え込みが深まると、この川も凍ってしまうことがあるそうです。 
ベンジャミンさんとは年齢が近いこともあり、気負わずに話すことができ、
かごや仕事、家族、ドイツやフランスのことなど、歩きながら話は広がっていきました。
こうして多くの話ができたことは、私にとって本当にうれしい時間でした。

散歩から戻って、今度は工房を見せていただくことになりました。
まず、ベンジャミンさんが、「トモ、これを見てくれ!」と広げて見せてくれたのは、
大きな写真のポスター。
この写真は、私たち市川籠店がはじめてベンジャミンさんに
注文させていただいた完成品を、ご自身で撮影されたものです。
前職で写真に関わるお仕事をされていたと伺っています。
私自身、この写真がとても好きで、
はじめて見せていただいたときの感動は、今でもよく覚えています。
ご本人にとっても、注文品が完成したときのこの一枚は特別なもののようで、
最近はイベントの際にも持っていかれているのだそうです。
そのことを知り、私も胸が熱くなるような思いでした。

さあ、あらためて、工房の中へおじゃまします。 
こちらはベンジャミンさんがつかわれている道具かご。フランスの西部の農民がつかっていた伝統的なかごのスタイルとのこと。 
入り口の脇には、背のたかい薪ストーブが置かれていました。その意匠がとても格好いいです。 
いろいろなかごのかたちを生み出すための木型の数々。 
丸みのあるかたちをつくるための型。 
かごのフレームや骨組みにつかわれるヘーゼルなどの枝。 
かご作りのメインでつかわれる、いろいろな種類のやなぎの束も出番を待っています。 
そして、ご自身やお祖父さまが作られてきた数々のかごやサンプル。 
写真左上に見えるのは、おそらくダルハウゼンスタイルのかご。ベンジャミンさんは、ダルハウゼンのハンスゲルトさんともつながりがあります。 
たくさんの材料を削った跡。 
作り途中のかご。 
かご作りの道具や掃除用具も、整然と並べられていました。

こちらのかごは、ベンジャミンさんのお祖父さまが作られたものです。じつはベンジャミンさんは、かご職人の三代目にあたります。このかごは現在のベンジャミンさんのものとは少し雰囲気が異なりますが、かごの枠組みにヘーゼルや栗の木をつかい、やなぎで編んでいくというスタイルは、今も変わりません。 
そして、お父さまのレオンさんは二代目のかご職人。こちらは、レオンさんが作られる、つるして使うピンチバスケット。 
こちらの写真にあるかごも、すべてレオンさんが作られたものです。あの「くるみ割バスケット」もあります。 
ベンジャミンさんご自身は、もともと別の仕事に就いていましたが、現在はこのかご作りを生業とされています。その真面目さと明るい人柄もあって、
ヨーロッパ各地の多くの作り手と交流を重ねているそうです。
お父さまやお祖父さまが作られていたかごに限らず、いろいろな地域のかご作りの技術を今でも学んでいるとのこと。 
また、かご作りについてはレオンさんと二人三脚で歩んでいると話すベンジャミンさん。各地で学んだ技術を、おたがいに共有しあうこともあるそうです。

ベンジャミン家の三代にわたるかご作りの道は、これからも続いていきます。
写真左下は、お祖父さまのかご、
中央下と左奥は、お父さまレオンさんのかご、
そして、中央の背のたかいかごが、ベンジャミンさんの作品です。

ここで、ヘーゼルの枝を加工するところをベンジャミンさんが見せてくれました。 
小さなナイフで切りこみを入れ、両手で枝の繊維の様子を見ながら、縦に割っていきます。 
二つに割り、それをさらに二つに割きます。 
これで一本の枝が四つに割られたことになります。 
そこからはナイフをつかい、目指す厚みになるまで、この割り枝をひたすら削っていきます。 
何度も何度も、くりかえし削っていきます。 
厚みが整ってきたら、ももの上でやさしく折り曲げながら、くせをつけます。 
これを一本ずつ、先端から、反対の先端まで、また何度も何度もくりかえします。 
そして、かごのフレームを組みはじめます。 
森でヘーゼルの枝を採取し、選別し、四つ割りにして、そこから絶妙な厚みになるまで何度も調整を重ねていきます。そうしてようやく、編み始める準備が整います。やなぎの材料を入手してかごを編み始める方法に比べて、はるかに手間のかかる工程でかごを作られていると思います。

ベンジャミンさんは、こう話されていました。
「私のかごが、ほかのヨーロッパのかごよりも
たかくなってしまう理由はこの材料作りにあります。」

ベンジャミンさんの作られたかごは、
ひとつひとつが丁寧に作られていることが伝わる、
かっちりとした丈夫な仕上がりで、ほかにはない魅力が感じられます。

さて、ほんとうにたのしい時間というのは、あっという間です。
気がつけば、帰国の時間が近づいていました。

ベンジャミンさん親子と。
いつかレオンさんやベンジャミンさんの生まれ故郷、
フランスの町を訪ねてみたいと思います。

最後は、ベルリン駅から高速鉄道ICE(イーツェーエー)に乗って、
フランクフルト空港へ向かいます。
早朝4時過ぎにベルリン駅を出発するICEに乗るため、
ベンジャミンさんがわざわざ予約の手配をしてくださり、
さらに夜中の2時に起きて、車で駅まで送ってくださいました。
そのご厚意には、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。
ベンジャミンさん、レオンさん、そしてご家族の皆さま、
ほんとうにありがとうございました。
Benjamin, Léon et toute votre famille, merci du fond du cœur.
Benjamin, Leon und Ihrer Familie – vielen Dank von Herzen.

これで、私のドイツの旅は終わりですが、
「ドイツ出張記」は、あとすこし、つづきます。
よろしければお付き合いくださいませ。
つづく

*ベンジャミンさんのかご作りや初めてお会いしたときのことについては
こちらのジャーナルをご覧ください。

