カタルーニャに受け継がれるかご作り パウさんの仕事 ―ドイツ出張記 11

こんにちは。イチカワトモタケです。
先日の3月7日まで、実店舗で開催しておりました
“ひとつのテーブル” 特集展
ドイツで出会った、ヨーロッパのかごたち
今回の特集展では、2025年9月にドイツ・リヒテンフェルスの町で開かれた
「かご編みフェスティバル」のかごマーケットに
出店されていた方々の作品をご紹介しました。

日本初上陸となるフランスのカレンさん、コランタンさんの作品とともに、
もうひと方、今回はじめての日本での展示販売となったのが、
スペイン北東部、地中海に面したカタルーニャ地方でかごを編む作り手、パウさんの作品です。
パウさんとは、このかご編みフェスティバルで初めてお会いしました。
私が以前、南米パラグアイに2年ほど住んでいたこともあり、
片言のスペイン語で話しかけてみたところとても喜んでくださり、
そこから会話が広がっていきました。
このフェスティバルでは、参加者を含めてもスペイン語で会話をしている人たちを
ほとんど見かけなかったので、そんな中で初対面のアジア人である私が
スペイン語で話しかけたことにパウさんは驚かれたかもしれません。
久しぶりにスペイン語で言葉を交わせたことも、うれしく思いました。

パウさんにお会いしたのはこのときが初めてでしたが、
このカタルーニャ地方の伝統的なかご編みを目にしたのは、
それよりもずっと前のことでした。
何年も前、カタルーニャ地方の伝統的なかごが描かれたイラストを目にしたことがあります。
そこには、さまざまなかたちのかごが描かれていました。
イラストの雰囲気から、それらは遠い昔のもので、
今ではもう作られていないもののようにも思えました。

カタルーニャのかごは、やなぎと「カーニャ」という竹のように
かたい葦-あし-をつかって編まれるもので、
その二つの素材から生まれる色のコントラストは、ひと目で心にのこるほど印象的です。
そのかごの姿が心にのこり、ずっと頭の片隅にとどめたまま、長いあいだ過ごしていました。
そしてあるとき、ヨーロッパの作り手が投稿した写真の中に、
カタルーニャのかごらしきものを見つけました。
「もしかして、これは、あのイラストにあったカタルーニャのかごでは?」

そう思い、その作り手の方に尋ねてみると、
スペインで活動されている「パウさん」が作ったものだとのことでした。
それを聞いて、私はぜひパウさんにお会いしてみたいと思いました。
すぐにでもスペインへ行きたい気持ちではありましたが、
ちょうど、ドイツのかご編みフェスティバルへ行くことを決めていたところでした。
もしかしたらと思いパウさんに尋ねてみると、
嬉しいことにそのフェスティバルに参加されるとのこと。
それを聞いた私は大喜びで、「ぜひ現地でお会いしましょう!」と、約束をしたのでした。

そして、ドイツ・リヒテンフェルスのかご編みフェスティバル初日。
まずはじめにパウさんのブースを訪ねてみると、あの、いつか見たイラストに描かれていた
カタルーニャのかごたちが、ずらりと並んでいたのです。
思わず感動してしまいました。
カタルーニャの伝統的なかごを、いまの時代にも、しかもこれほど多く作り続けている
職人さんにお会いできるなんて、まるで夢のようでした。
そして、どのかごも仕上がりの質が高く、ほんとうに格好よくて、
かごの数々がブースに並ぶ姿は、いつまでも見ていたくなるような光景でした。

ちょうどこの初日の朝はマーケットが始まるまでにすこし時間があったので、
まだ人のすくないうちに、コーヒーを飲みながら
パウさんとゆっくりお話をすることができました。
お話をうかがうと、ご家族はカタルーニャ地方で代々かご屋を営んでおり、
彼はその四代目にあたるとのことでした。

私たちもかご屋として五代目になりますので、このお話には驚きました。
そして場所はちがっても、おなじようにかごを生業として
長くお店を営んでいることに、どこか親しみを感じました。
このあとマーケットが始まったので、私はいったんブースを離れましたが、
会場を回りながら折にふれて彼のブースに立ち寄り、言葉を交わしました。

また後日、帰国後にパウさんとメールでやり取りをした際、
かご作りについて、お話を聞かせてくださいました。
パウさんは、四代目としてカタルーニャの伝統的なかご作りを受け継いでおり、
そのことが、ご自身の仕事にとって、学びや日々の作品づくりの面で
大きな影響を与えているそうです。
「かごの素材においても、伝統的なかごを再現するということにおいても、
この仕事の純粋さをできるかぎり保っていきたいです。」
パウさんのいう「仕事の純粋さ」というのは、つまり、土地の素材をつかい、
昔からのかたちや技術を大切にしながらかごを編むということだと思います。

「伝統的なかご作りの中でこそ、知識や技術は身についていきますし、
それがあるからこそ、革新や、より現代的なかご作りができるようになるのだと思っています。」
伝統を学ぶからこそ革新できる、とパウさんはいいます。
しかしパウさんは、初めからこの家業を継ぐつもりだったわけではなかったそうです。
「自分の意志で選んだ道ではありませんでした。
勉強がとても苦手だったこともあって、18歳のとき、
父から工房でこの仕事を学ぶようにと言われました。
けれど時が経つにつれて、この仕事が好きになり、
いまでは人生の中で欠かすことのできない、大切な一部になっています。」

また、パウさんとかごフェスティバルのブースでお話をしたときにお聞きした話です。
「うちの父もかごを作るんですが、
父が『木型をつかってそこに編みつけながらかごを作るのはズルだ』と言うんです。
だって、それなら誰だって完璧なかたちを作れるじゃないか、って。」
パウさんのかごは実に端正で凛としていて、また力強く、格好良いかごだと思います。
それを木型をつかわずに、しかも同じかたちのものをいくつも作り続けるというのは、
そう簡単なことではありません。
そのことについてパウさんに尋ねると、こう答えてくれました。
「特別な秘訣があるわけではないですよ。
大切なのは、とにかくたくさん仕事をして、素材を理解して、
思い描いたかたちをつくれるようになることです。
作って、そして間違えること。
それがいちばんの学びなんです。
つぎに作るときには、どこを直せばいいのかが分かってきますから。」

帰国後に交わしたメールの中で、
パウさんはかご作りについて、こんなことも話してくれました。
「どの工程も大切ですが、まずは、それぞれの作品に合った素材を選ぶことから始まります。
そしてつぎに大切なのは、かご全体のプロポーションです。
編み始めたら、できるだけしっかりとした張りを保ちながら、
思い描いた寸法になるように心がけて編み進めていきます。
そして最後に、仕上げを丁寧に確認します。」

また、ご自身の仕事について、このように話してくれました。
「四代目としてこの仕事をつづけていることは、私にとって大きな誇りですし、
家族の伝統を受け継いでいく励みにもなっています。
この仕事に携わっていられること自体がよろこびで、
私にとっては、まるで“薬”のような存在です。
そして、この仕事があたえてくれる自由も、
私にとってとても大切なものです。」

ここからは、今回、弊店で展示・販売しているパウさんの作品をご紹介します。こちらはカタルーニャのかごのなかでも代表的なかたちのものです。ぶどうなどの果樹畑や野菜畑で採れたものを運んだり、買い物用のかごとしてつかわれていたそうです。 
こちらは、ふたの付いたタイプ。山や海へ出かけてレジャーを楽しむ文化がある地域ならではの、ピクニックバスケットです。 
こちらはトールタイプ。すっきりとしてかわいらしい佇まいで、ワインボトルを運ぶのにもちょうどよいサイズです。 
やなぎだけで編まれたかごもあります。縁のねじり部分の仕上げが、ほかのかごとはすこし異なります。浅くて口の広いタイプは、畑での収穫かごとしても使われてきました。 
こちらも、ふた付きのミニバスケットです。もうひと回り大きいものは、かつて「ラビットバスケット」とよばれ、うさぎを運ぶためのかごとして使われていたそうです。 
ふたの一部は柵のようなつくりになっており、かごの中が見える仕様です。 
編み目の詰まった部分は、このように開くようになっています。 
こちらは、ガラスのボトルに編み付けた小さな小さなバスケットです。もっと大きなものは、ワインやオリーブオイル、ビネガーを入れて運搬や保管しておくためのかごだったそうです。 
小さなコルクのふたがついています。 
反対に、こちらは大きな大きな、特大サイズのバスケット。ぶどうの収穫や運搬に使われてきたかごだそうです。 【SOLD OUT】

どれも、スペイン・カタルーニャ地方の文化や暮らしの中で生まれてきたかごです。

パウさんの手によって、かっちりと丁寧に作られたかごの数々。
どうぞお手に取ってご覧ください。
ドイツの出張記は、もう少しつづきます。
