L’Oseraie de l’île やなぎ畑から生まれるかご ―ドイツ出張記 10

フランス南西部、ボルドー地方のちかく。
カレンさんとコランタンさんは、
やなぎ畑の広がる農場「L’Oseraie de l’île(ロズレ・ド・リル)」でかごを編んでいます。
もちろん、お二人は最初から一緒だったのではなく、
フランスのそれぞれ別の地域で生まれ育ち、それぞれの背景から、かご作りの道へ進まれました。

やなぎとの出会い
カレンさんは美術学校で学んでいましたが、概念的な講義が多く、
つよいフラストレーションを感じていたそうです。
その学校で行われたアイルランドでの研修で
はじめてやなぎのかご編みに触れ、そしてすぐに、やなぎが語りかけてきたといいます。

その香り、その技術。
ほんのすこしの道具と、数本の枝。
そして、自分たちの手だけでかたちを生み出すということ。
すべてが、魔法のように感じられたそうです。

一方、コランタンさんがかご作りを始めたのは、当時、ご病気だったお母さまと
なにかを共有する時間を持ちたいと思ったことがきっかけだったそうです。

二人の出会いとL’Oseraie de l’îleのはじまり
お二人は、フランスで開かれていた、あるクラフトマーケットで出会われました。
すぐにおたがいの技術に惹かれ合い、その技を共有したいと思うようになったそうです。
そして、「愛がそのすべてを結びつけた」とおっしゃいます。
それぞれフランスの別の地域のご出身ですが、
あるとき、コランタンさんがやなぎを仕入れていた南西部の農場
「L’Oseraie de l’île(ロズレ・ド・リル)」が売りに出されていることを知ります。
そこは、やなぎの栽培を中心に営まれていた農場でした。

「二人のかご職人にとって、それはきっとすばらしい冒険になると感じた。」
こうしてお二人は、7ヘクタールものやなぎ畑を引き継ぎ、
おもにボルドー地方のブドウ畑でつかわれる結束用のやなぎを栽培し始めました。
その後、栽培の規模を少し小さくし、
今ではご自身たちのかご作りに使う分だけを育てています。

やなぎを育てることの意味
日本の竹細工においてもおなじような状況がありますが、
フランスやヨーロッパ各地でも、良いやなぎの材料を供給してくれるところが、年々少なくなっているそうです。
やなぎを自ら管理し、栽培していくことは、ほんとうに大変なことだと思います。
それでも、そこには大きな意味があり、とても美しい営みであると、お二人は話されます。
「望む方法で、自然を尊重しながら素材を育てられるということは、
とても理にかなっていて、満足感のあること」だといいます。

現在、お二人は20種類にもおよぶやなぎを育てていらっしゃいます。
「やなぎを自分たちで育てることで、土地に合った品種を選ぶことができるし、
さまざまな種類を試すこともできます。」
しかし、その年にどのような長さや状態のやなぎが育つかは、
自然に左右されることであり、必ずしも思いどおりになるわけではありません。
その年の自然条件のもとで育ったやなぎの状態に合わせて、
作り手であるお二人には大きな柔軟性が求められるといいます。

お二人はいいます。
「お客さまにも、やなぎの色が自然のものであることや
資源が毎年かぎられていることを、ご理解いただきたいです。
その年に採れたやなぎの状態や分量に合わせて、作るかごのかたちを決めることもあります。
かごに合わせて材料を選ぶのではありません。
それはまさに、農家としての論理のなかにある考え方です。」

この言葉を聞いて、私はハッとしました。
ブイリクのようなフランスの伝統的で実用的なかごも作られる一方で、
伝統的な技法を生かした「アート」や「オブジェ」を制作されているお二人です。
そのイメージから、素材の状況よりも「作りたいものやかたち」が優先されているのではないかと、
私は無意識のうちに思っていたのです。

しかし、私が目にしている彼らのアートやオブジェ作品のその奥には、
お二人が「L’Oseraie de l’île(ロズレ・ド・リル)」という土地に根を張り、
日々、やなぎや畑と向きあいながら地に足のついた暮らしのなかで
仕事をしている姿があるのだとわかりました。

むしろ彼らの作品は、
自然がもたらした「やなぎ」という恵みから生まれるアートなのです。
このメッセージを読んで、私はどこか安心し、うれしく感じました。
そしてなにより、お二人への信頼がさらに深まりました。

かご作りについて
「やなぎという素材が、そのかたちのなかで
私たちに投げかけてくる“技術的な挑戦”に惹かれています。
そして、やなぎの曲線や素材そのものの張りを生かしながら、
編みのなかに動きを生み出すことを楽しんでいます。」

「そのインスピレーションは、曲線のもつ美しさやシンプルさのなかなど、あらゆるところにあります。」

ときには、お二人で協力して大きな作品を手がけることもあるそうで、
“デュオ”として向き合うそのやり取りも、創作の原動力になっているそうです。


かごを編むときには、その一本一本のやなぎの性質をよく見つめ、
素材のもつ特徴を引き出し、それを生かしていくことが大切だとおっしゃいます。
「張りのバランスの“遊び”」
やなぎには、それぞれに張りやしなりがあります。
締めすぎず、緩めすぎず、その力のバランスを感じとりながら編むことで、
そこに自然な動きが生まれていくのだそうです。

そして、彫刻とおなじように、
美しい曲線が生まれたところで、適切なタイミングで手を止めることも大切だといいます。

「工房で二人一緒に、
自分たちのリズムでやなぎを編んでいる時間。
それこそが、私たちの喜びであり、私たちの生き方そのものです。」

2015年にはじめて出会ってから、こうして長い年月を経て、
ようやく弊店でお二人のかごをご紹介できることになりました。
こうしてご紹介できる日を迎えられたことを、うれしく思います。
東京・南千住の店舗にて、お手に取ってご覧いただけます。
この機会に、「L’Oseraie de l’île(ロズレ・ド・リル)」お二人の
やなぎの恵みから形作られるかごをどうぞご覧ください。
ドイツ・リヒテンフェルスのかご祭りでは、
この数年、短編映画を上映する「フィルムフェスティバル」も同時開催されています。
2025年には、お二人の制作風景を撮影した作品がグランプリを受賞しました。
映像制作:Héloïse Allemandouさん
https://www.heloiseallemandou.com/
こちらの映像には、やなぎの収穫風景や工房でかご作りをしている様子が
まるでフランス映画のような雰囲気で美しく収められています。
どうぞゆっくりとお楽しみください。
つづく

写真提供:L’Oseraie de l’île
商品写真:市川籠店





